第67回 カフェで学ぼうがんのこと「胃がんと外科治療」

外来や手術でお忙しい中、磯部先生にお越しいただき貴重なお話をいただきました

日本では1970年後半から、がん死亡率が急激に増えてきました。現在、胃がんに関しては男女共、死亡率は減少傾向にありますが、罹患数は高齢化の影響もあり少しずつ増えてきています。

胃がんの原因

胃がんの原因として考えられられることはストレスやタバコ、刺激物、アルコール、暴飲暴食、遺伝的素因などがあります。最近ではピロリ菌が原因となって萎縮性の胃炎をつくるといわれています。

胃がんの症状

胃がんは自覚症状が出にくい病気です。代表的な症状としては、食欲不振、お腹のハリ、体重が減る、吐血などがあります。これらの症状が出たときにはかなり進行している場合が多いです。また、糖尿病や高血圧で定期的に採血をしている方は貧血が進んだ場合、胃カメラによって胃がんが発見される場合もあります。胃の痛みなどを感じたら、自己判断で薬を飲むのではなく、まずは検診を受けることが大切です。

胃がんの検査

胃がんの状況を調べる検査には、採血、レントゲン、エコー検査、胃カメラ、バリウム検査、CTなど様々あります。それぞれにリンパ節を診たり、肺を診たり、胃を切る範囲を決めたりと目的が異なりますので、これらの検査を受けることで適切な治療方針を決めていきます。

●バリウム検査

バリウムと胃を膨らませる発泡剤を飲んで行なうX線検査です。一般的に検診で行なわれています。最近では胃カメラを検診で使っている病院も多くなってきました。ですが、胃カメラでは分からないスキルス胃がんの診断に有用な場合があります。

●胃内視鏡

口や鼻から胃の中に内視鏡を挿入して行なう検査です。胃がんの大部分を発見でき、病変の全体像、形態、色調の観察、生検に有用です。

●超音波内視鏡

早期胃がんで内視鏡でとるか、手術でとるかという細かい診断をするときに胃カメラの先端に超音波がついた内視鏡で深さを調べる検査です。

●CT/MRI

X線、磁気により人体の断層を描出する検査です。がん細胞が他の臓器に転移してないか、リンパ節が腫れていないか調べるのに有用です。

腫瘍マーカー

早期診断には有用ではありませんが、術後の再発、予後予測に有用です。

●その他

遠隔転移の検査として、大腸検査や骨シンチグラフィー、PET-CTなどがあります。最近ではABC検診という言葉を耳にすることがあると思います。血液中のピロリ菌とペプシノーゲンを計測し胃がんに罹るリスクを分類し評価する検診です。

ペプシノーゲンというのは胃の萎縮の程度を測ります。ピロリ菌もなくて萎縮もないという方はほぼ胃がんの心配はありません。ただ、ピロリ菌がいる場合、萎縮がある場合は胃カメラをおすすめします。萎縮が進みすぎてピロリ菌が住めなくなった状態になると、約1.2%の人に胃がんが見つかる場合があります。ABC検診は採血だけで分かりますので、胃がんの早期発見のため一度受けてみられることをお勧めします。

胃がんの治療法

以前は胃がんと診断された段階で、ほぼ手術をして再発したら抗がん剤をうち、最後緩和ケアをするという流れで、最初から最後まで外科医だけが診ることが一般的でした。現在は、早期に関しては胃カメラで取れる場合があります。その場合は内視鏡で内科医の専門分野となります。手術では腹腔鏡手術、開腹手術を外科医が行ないます。術後に再発防止のための抗がん剤治療、手術前に抗がん剤をする場合も増えてきました。こちらは腫瘍内科医がメインで治療を行ないます。緩和ケアの部門でもがんと診断されたときから少しずつ介入していき、精神的なケアをしていくようになりました。内科と外科、腫瘍内科と緩和ケアチームなどそれぞれの専門分野に分かれてより、患者さんの様態に合わせた治療を行なうようになりました。

胃がん治療法の変化

基本的な治療方針は胃がん治療ガイドライン(*)によって決めていきます。ガイドラインでは胃がんの治療は少し複雑ですが、がんの深さ、リンパ節の量によってステージがⅠ~Ⅲまで決まってきます。深いほど、リンパが多いほど進行がん、肝臓や肺、骨、腹膜に転移があればステージはⅣになります。

*胃がん治療ガイドラインは本屋さんでも販売しています

胃がんの進展

がんの進み方には以下のようなものがあります。

①壁進展、直接浸潤

がんが局所で大きくなっている、もしくは全周性に広がっていて胃が狭くなっていったり、食べ物が通らなくなったり、大腸や胃の裏のすい臓に浸潤していくような進み方

②リンパ節転移

胃の周りのリンパ管にがん細胞が入り込み、リンパの流れに乗って移動し、全身に広がる進み方

③腹膜播種

種を蒔くようにがん細胞がバラバラバラと外に飛び散る、癌性腹膜炎という状態

④肝転移(血行性)

がん細胞が、血液の流れに乗って全身の他の部分に移ることによって起こる転移です。肝転移、その先に肺転移、脳転移、骨転移などを起こします。

がんの進行は、最初は粘膜にできた早期がんが徐々に深く、大きくなっていき、最後は直接他の臓器に転移し、腹膜播種という状況を起こしていきます。

ステージⅠであれば胃カメラでがんを取り除き、腹腔鏡の侵襲の少ない手術でほぼ治ります。Ⅱ期、Ⅲ期になってくると手術が必要です。肝転移や腹膜播種が見つかった方は残念ですが手術をしても助からないので、今は抗がん剤治療をメインに行なっていきます。

胃がんの診療の流れ

実際に皆様が病院に来られて胃カメラやCT検査を受けていますが、どういう風に治療が流れているかというと、まずCTで肺や肝臓に腹水はないかということを確認します。もしあればステージⅣとなり手術はできず、お薬の治療になってきます。遠隔転移がない場合は胃カメラと透視で深さをチェックします。深さは粘膜だけで2cm以下、分化型、リンパの腫れや潰瘍もない方の早期胃がんの場合、胃カメラでとれます。それ以外の方は手術が必要となります。

術後はステージⅠの方は何もせずに経過観察、ステージⅡ、Ⅲの方は(一部を除きます)術後にTS-1という薬で再発予防を行ないます。

ガイドラインに沿った治療とともに、例えば心筋梗塞がある方や脳梗塞で寝たきりである方などいろいろなことを加味していきます。そして、患者さんに色々な選択肢を提示し、場合によってはセカンドオピニオンを選ばれる患者さんもいらっしゃいますが、最終的には患者さんと一緒に治療方針を決定していくことになります。

実際の治療

●内視鏡手術

2cm以下で分化型のがん、潰瘍がなくて粘膜だけにある場合は胃カメラでとることができます。これは条件が厳しいので、毎年検診を受けている患者さんがほとんどです。いかに検診が大事かということになります。

●外科手術

標準治療はお腹を開ける治療になりますが、最近では傷の小さい腹腔鏡手術もあります。腹腔鏡手術は早期がんに限っては臨床試験で開腹手術と予後、安全性代わりがないということが分かり、かなり広まってきました。しかし、進行胃がんに関しては臨床試験で長期的な予後についてはまだ結果が出ていないのが現状です。今後は技術の向上に伴い、開腹術が減ってきて腹腔鏡手術が増えていく見通しです。

標準治療としては、胃全摘、もしくは下3分の2切除の2つがあります。その他縮小手術、とる範囲とリンパ節を郭清する量を減らしたものがあります。縮小手術は標準治療ができない心臓病をお持ちの方、高齢者の方にする場合もあります。ステージⅣの方にはバイパスをして食べられるようにしてあげたり、出血をしている方はその部分だけとって出血を抑えたりする姑息的手術を行ないます。

・開腹胃切除

お腹を開けるとスッと胃が取れるわけではなく、胃と大腸をはなして、胃と脾臓をはなして、胃と肝臓をはなして、そして血管を処理してリンパ節とともに胃を切除していきます。ですので、太っている方ほど血管が見えにくく、手術がやりにくく、合併症も増えてしまいます。

・腹腔鏡手術

お腹に4~5つの筒を入れて炭酸ガスでドーム状に膨らませ、はさみや鉗子を入れてカメラモニターを見ながら同じように血管を処理していきます。実質上は開腹手術と同じです。今のところはリンパ節移転がなく、内視鏡で取れる範囲は超えている早期胃がんが適用できます。今後は進行がんでも深さが2.、3ぐらいまで少しずつ適応を広げていきます。
腹腔鏡手術のメリットは
・傷が小さい
・痛みが少ない
・退院までが早い、社会復帰が早い
・癒着が少ないので腸閉塞が起きにくい
・モニターで血管が見やすい
・医者の教育の面でも良い

腹腔鏡手術のデメリットは
・道具が高い
・手術が長い
・技術が必要
・鉗子が長いので直接手で触れるより感覚が鈍い

ロボット手術

腹腔鏡手術をさらに改良し、低侵襲な手術を可能にしたロボット手術になります。術後、合併症が起こった患者さんほど再発率が高くなります。ですので、いかに確実に安全に手術を行うことが患者さんの今後の再発を考えるととても大切になっていきます。

このロボットにはda Vinci(ダヴィンチ)というイタリアのルネサンス期を代表する芸術家の名前がついています。ダヴィンチは解剖学者としても有名で万能の天才といわれています。

まず、助手が持っているカメラを機械に接続します。術者はコックピットに入って鉗子を操作します。ダヴィンチは 2012年、前立腺がんの全摘出手術で保険適用になり、設置台数が増えてきました。アメリカで前立腺がんの手術は以前では100%開腹だったですが、今は9割近くがダヴィンチで行なっています。

ダヴィンチのメリットは
・高解像度3D画像ですごく鮮明に組織を捉えることができる
・人間の手より動く関節があるので、すい臓を飛び越えて奥のものを掴んだりと自由自在に曲げることができる
・手の震えをコンピューター制御で吸収します、腹腔鏡でゆらゆらしていたようなものがピタッと固定される
・術者とロボットのアームを最大5:1まで設定でき、より繊細な治療ができるようになった

現在、久留米大学ではダヴィンチのチームを組んでトレーニングを行なっています。

現在のところ保険収載されているロボット支援手術は、前立腺悪性腫瘍手術、腎悪性腫瘍手術のみです。腹腔鏡下胃切除とロボット支援下胃切除を比較した臨床試験でロボット手術では腹腔内合併症が少ないという結果が出ました。それをもって2018年1月、厚生労働省の会議で4月にも保険収載される見通しとなりました。

ダヴィンチを導入するには以下の施設基準があります
・ダヴィンチを10例した医者がいる施設
・年間50例の胃の手術をしている施設
・20例以上の腹腔鏡手術をしている施設

現在はまだ自由診療(自費)の段階ですが、久留米大学病院では『入院・治療に関わる全額を病院負担』でロボット支援下胃切除を開始しました(初期10例の見込み。11例目以降は通常保険診療にて継続)。

最初は色々な制約がありますが胃がんで悩まれる方、新たに見つかった方などがいらっしゃいましたらお気軽にご相談ください。

これからも身体への負担が少ない安全な医療を目指してましります。

久留米大学病院 公式WEBサイト

質疑応答では一人ひとりの質問に丁寧に答えていただきました

感想など

実際の手術動画を見ながらの説明は分かりやすく、また同時に健康の大切さを感じました。どのような病気にも言えることですが、症状が出てから医療機関へ行くのでは手遅れで、日頃の生活習慣や定期検診の重要性を痛感しました。今後も医療は日々進化していきます。「知識は力なり」。正しい情報を集めることで自分自身や大切な人たちを守ることにこのセミナーを役立ててほしいです。


 日  時 :2018年2月19日(月)15:30~17:00 
 講  師 :磯部太郎先生(久留米大学医学部外科学講座)
 参 加 費 :1500円(ドリンク、お菓子付き)
 参加人数 :16名
 会  場 :筑邦銀行 福岡営業部 3F会議室(福岡市中央区高砂1丁目24-20)

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