今までがんの治療法としては「外科療法(手術)」「化学療法(抗がん剤治療)」「放射線療法」の3大療法があげられていました。
最もよい治療方法はがんそのものを外科療法(手術)によって取り除くことです。しかし、実際には目で見えるがんを取り除いても、その周りには小さながんが散っている場合が多くあります。さらには遠隔転移を起こしている場合も。そうなってくると手術では完全に取り除くことはできません。そこで一般的には化学療法(抗がん剤治療)を行ないます。また、放射線をあててがん細胞を殺してしまう放射線療法もあります。
最近になり、これら3つの方法に加え第4の治療法として「免疫療法(がんワクチン療法)」が認められ、4大治療法と言われるようになりました。
がん免疫療法とは?
私たちの身体は免疫系によって、さまざまな感染症などから守られていることはご存知だと思います。がん免疫療法とは、がんを排除するためにこの免疫系を使う方法です。ただし、がんの場合は外から入ってきた菌やウィルスと違い、身体の中にもともとある細胞が反乱を起こし、がんへと変化していきます。よって、本質的には私たちの中にある成長細胞と大部分が同じなのです。このことが、がん治療を困難にしている理由の1つでもあります。
現在行なわれているがん免疫療法は主に3つあります。
①がんワクチン療法
ワクチンを患者さんに投与することによって、体内で免疫を誘導する治療法
②免疫細胞療法
患者さんの免疫細胞をいったん身体の外に取り出してワクチンと混ぜ、がんを認識できるような細胞を増やした後、再び体内にもどす治療法(※久留米大学では行なっていません)
③免疫チェックポイント阻害療法
がんによってブレーキがかかった免疫の攻撃力を回復させる治療法
「がんワクチン療法」
ではまず、「がんワクチン療法」について詳しく説明していきます。そもそも、がんの免疫機構は「がん免疫サイクル」で動いています。このサイクルがうまく回らなくなることで私たちはがんにかかってしまいます。サイクルをスムーズに回すため外から手を加えることが「がんワクチン療法」です。
がん細胞から自然に壊れてでてくるがん抗原と同じものをワクチンとして注射します。そうすることで、がん免疫サイクルをうまく回していきます。
個々の患者さんによってがんの性質は少しずつ違うため、がん抗原も微妙に違ってきます。そこで久留米大学では、個々の患者さんのがん抗原、あるいはそれに反応する免疫系を調べ、それそれに適したワクチンを選択し投与する「テーラーメイドがんペプチドワクチン療法」を進めています。
実際の治療法としては入院の必要は無く、外来通院で最初の6回ないし8回までは1週毎に1回、4種類の注射をうち、血液検査を行ない免疫系がうまくはたらいているか確認します。それ以降は2週毎に1回となります(一部異なるスケジュールの試験もあります)。
1回のワクチン治療に要する時間は、問診とワクチン注射に要する時間で20~30分程度です。日常生活に制限は特になく仕事、旅行、ゴルフ・・・・なんでもOKです。
抗がん剤を使った場合は副作用があるのに対し、「がんワクチン療法」ではペプチドワクチン自体にがんを殺したりする力はないため、副作用はほとんどありません。あくまでがんを殺すのはあなたの身体の中にいる免疫細胞なのです。
がんペプチドワクチンの効果は?
- がんの増殖スピードを抑えられることから延命効果が認められる(進行がんで1.5~2倍程度延命)
- 腫瘍の縮小には2~3割の患者さんでしかみられない
- ワクチン療法単独では、がんが完全に治療することはきわめて稀
- ワクチン自体に毒性が無く、戦っているのは患者さん自身の免疫系がはたらいているので重篤な副作用がほとんどなく、高い生活の質(QOL)を維持したまま元気に過せる
近畿大学や東京慈恵会医科大学、国立がん研究センターなどと共同で、前立腺がんが再燃した早期のがん患者さんに対して、デキサメタゾンというステロイド治療とデキサメタゾンとワクチンを併用した治療を比較する臨床試験を行ないました。その結果、がんが進行する期間が従来のステロイド治療だと7ヶ月だったところが、ワクチンを併用することで22ヶ月まで延長したという結果が得られました。
現在、前立腺がんを対象とするワクチンに関しては企業治験で富士フィルムさんが主となり、久留米大学発のベンチャー企業ブライトパスバイオと共同で試験を行なっています。2018年の春ごろ試験終了予定でその後、医薬品として承認されれば国内初のがんワクチンとなります。
このワクチンに関しては前立腺がん以外でも、肺がんや皮膚のがんである悪性黒色腫に関して米国で臨床試験が行なわれています。
「免疫チェックポイント阻害剤」
免疫チェックポイント阻害剤の抗PD-1抗体医薬(オプジーボ、キイトルーダ)が悪性黒色腫に関して2014年7月、国内で最初に医薬品として承認され、保険適応になりました。今現在、非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、頭頸部がん、胃がん、尿路上皮がんが次々と承認されています。
がん細胞に対して活性化したT細胞CTLが、がん細胞を攻撃するときにT細胞上にあるブレーキをがん細胞が踏みます。ブレーキはPD-1という分子がT細胞上にあるブレーキで、がん細胞上のPD-L1という分子がそのブレーキを踏んでしまい、がん細胞が攻撃できなくなります。ブレーキを踏めないようにPD-1の上を抗体でカバーし、がん細胞を殺せるようにする仕組みの薬です。
逆にブレーキを踏むがん細胞側にあるPD-L1の分子をカバーする抗PD-L1抗体医薬もあります。しかし、こちらは注意が必要でPD-L1とPD-L2という分子があるので、PD-L1だけの抗体を使ってもPD-L2でブレーキを踏まれる可能性があり、PD-1抗体の効果に比べると弱くなることが分かっています。
薬の費用対効果評価、本格導入
抗PD-1抗体「オプシーボ」は非常に高額です。薬価が体重60kgの人だと2週毎に133万円、月額266万円、6ヶ月で1,596万円かかります。実際に患者さんは保険適応となり、例えば3割負担だとすると月額80万円。さらに高額療養費制度適応になるので年収370~770万円の人であれば月額10万円の負担となります。ですが、その分国の負担が大きくなり医療制度そのものが崩壊してしまう危険性が議論されています。
そのため厚生労働省は、試行的に導入している新薬の費用対効果を評価する仕組みを導入することを決めました。高額薬である新型がん治療薬「オプシーボ」やC型肝炎治療薬「ハーボニー」などの薬に対して、1年健康に寿命を延ばすため従来の薬より500万円以上かかる場合は薬価を引き下げるというものです。
感想など
1年前までは認められていなかった「免疫療法」について最新の情報を学ぶことができました。今後、免疫チェックポイント阻害剤が承認されるがんの種類が増え、生活の質(QOL)をたもちながら治療できるようになる可能性を感じました。
日 時 :2017年10月25日(水)15:30~17:00
講 師 :久留米大学先端癌治療研究センター 所長・教授 山田亮先生
参 加 費 :1500円(ドリンク、お菓子付き)
参加人数 :17名
会 場 :久留米大学福岡サテライト(福岡市中央区天神1-4-2 大丸福岡天神東館エルガーラ 6F)