2011年5月30日(月)西日本新聞朝刊で紹介されました!

2011年5月30日(月)西日本新聞朝刊

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ヘアスタイルが決まった日は自信が持てるし、美容院を出たら心が弾むー。人にとって、とりわけ女性にとって髪は自分を表す大切なものだ。

その髪を抗がん剤治療の副作用で失ったとき「自分が自分でなくなったような不安」に襲われる女性は少なくない。そういった女性に寄り添い、励ましたいと、かつらを無料で貸し出す団体が福岡市・天神にある。闘病を終えた人が提供し、治療へ挑む人へ。元気になったらまた別の人へ。「かつら(ウィッグ)がつくる勇気の輪(リング)」の現場を訪ねた。(南陽子)

※現在、レンタル料は無料ではなく1年間5,500円となっています。詳しくはこちら

かつらがくれる希望

「あら、とってもよく似合ってるわ。あとは、こめかみの所が浮かないようにしてみて」
姿見の前で、ボランティアスタッフの満安諏美さん(64)の声が弾む。
30代という女性は、つややかな「新しい髪」をなでながら、初めて笑みをこぼした。

天神の目抜き通りのビルにある「ウイッグリング・ジャパン」。この日、女性は帽子をかぶり、硬い表情をマスクで隠した姿でかつらを求めて現れた。
「私も37歳で乳がんになったのよ。その後、肺でも2回。でもまだ生きてます」。笑ってブラシでかつらを整えていく満安さんは、左の乳房と左の肺を失っている。

抗がん剤で髪が抜けた姿を人に見られるのは抵抗があるよね、治療もつらいし、これからのこと、家族のこと、かさむ医療費のこと、たくさんの不安があるよね、私も分かるの、でも大丈夫よー。満安さんの笑顔、言葉には、そんな共感の思いがこもる。街路樹に向かって開いた窓から、初夏の風が入ってきた。

いくつか試着した後、女性は褒められたかつらに決め、髪を揺らして帰って行った。


ウィッグリング・ジャパンは、ホームページや映像制作の会社を営む上田あい子さん(36)が、乳がんになった幼なじみがかつらに勇気をもらったと話す姿を見て、昨春立ち上げた団体だ。頭にぴったり合うよう細かな調整ができ、質感も自然な「医療用」と呼ばれるかつらは20万円近くする。治療費を抱える女性たちがさらなる出費をしないで済むよう無料で貸し出せたらー。

協力を呼びかけたところ、これまでに300個を超える数が寄せられた。私はもうこの先必要ではない!と信じて・・・。少しでもみなさんのお役に立てたらうれしく思います。

私の場合、治療後10ヶ月でウィッグなしになりました。少しは落ち込むことはありますが、気持ちの持ちようです。1年などあっという間に過ぎますよ・・・と伝えてください。同封されて届くたくさんのメッセージ。昨年7月に無料レンタルを始めて1年足らず。すでに180個余りが、いま必要とする女性たちへ貸し出されている。

不安な日々でも女性らしく、闘病の仲間へ元気のバトン

「このおかげで、普通のお母さんになれるんです」。福岡市早良区のみどりさん(55)=仮名=は、昨夏借りたかつらを大切にしている。1年前の昨年5月、下腹部が腫れているのに気付き、卵巣がんと分かった。卵巣や子宮を広く取る手術を受け、同7月から抗がん剤治療を開始。同12月まで半年かかる治療のなかで、最初の1ヶ月目で髪がごっそり抜けた。一人娘を置いて死ぬかもしれない恐怖に比べれば、一時的な脱毛など何でもなかった、とみどりさんは言う。でも娘は中学3年生で、母としてまだまだやらねばならないことがたくさんあった。

先生との進路面談に保護者との付き合い、卒業式。「だれが見ても健康なお母さんとして行きたい」もとの髪を少し切っただけに見せてくれる、かつらに助けられた。


みどりさんが使うかつらはもともと、福岡市東区のめぐみさん(41)=仮名=の闘病を支えたものだ。キャリアカウンセラーとして多忙を極める生活を送っていためぐみさんは3年前、右胸に10cmを超える腫瘍があるのを知る。死が突然立ちはだかった苦しみのなかで、抗がん剤、手術、抗がん剤と治療は昨年4月まで続いた。そして「過去の生活を改めよ、と言う神様のおぼしめし。自分にしかできない人生があるはず」と言う思いに至った。ハーブや健康食を学び、勤めを辞めたとき、ウィッグリング・ジャパンを知って、かつらを提供したという。


みどりさんもまた、高校生活を迎えた娘とともに、この1年を乗り越えた。髪も再び生え始め、5cmになった。今月に入って体調を崩したものの、持ち直している。妹夫婦からは「もっと元気になって社会に貢献することがお姉ちゃんのやるべきこと」と励まされている。

「かつらは『私も元気になったんだから、元気になりますよ』というバトン。だから私も一つ加えていいかな」とみどりさん。貸し出し期間の終わる8月にはめぐみさんのかつらに自分で買ったかつらを足して、返しに行こうと考えている。

貸し出しは1年間、提供も歓迎

「ウィッグリングジャパン」のかつら貸し出しは「レンタルサロン」との名称で、基本的に毎週月曜に開催。(※2018年現在は月2回の開催となっており、日程はホームページでご確認ください)希望者は、借りるかつらを選ぶために、試着ができる。満安さんと同じくがん経験者でボランティアスタッフの岡博美さん(50)が選び方や取り扱い方について助言をしてくれる。かつらのレンタルは1年。途中で1度交換できる。

岡さんは「パッと顔が明るく見えるものを薦めています」。事前に予約を、遠方の希望者については、郵送での貸し出しにも応じている。借りるには登録管理料2,100円が必要(2018年現在は年会費2,500円+レンタル料3,000円)。かつらの洗浄や事務手続きの費用、ボランティアの交通費などの運営費に充てている。

ウィッグリンヴ・ジャパンは近くNPO法人になる予定。7月から登録管理料を廃止して会員費5千円(入会費と年会費)を求め、不足する運営費を増やして、新たに病院への出張サロンや健康講座なども手掛けたいとしている。4月からは「運営費の足しに」と協力を申し出てくれた福岡市内のかつらメーカーの商品について、販売も始めた。商品はこちら

夏に向けて短めのかつらを希望する人が多く、送料負担での提供を引き続き歓迎している。

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